珈琲と檸檬

aikawazoe2009-09-05



高校生の時に、よく通っていた喫茶店がありました。

そこは、焼きたてのパイと自家焙煎の珈琲がとてもおいしくて、男性がひとりで切り盛りしているお店でした。

彼は、とても静かな人で、注文されたものを出した後は、ハンドピッキング(←珈琲豆を焙煎する前に、悪い豆を取り出す作業)を黙々としていました。

お互いに話す事もなく、でも、その感じがとても心地よいお店で、本を1冊持って通うのが習慣になっていました。


ある日、いつものように行き、いつものように帰ろうと、自転車にカギを差していたら、

お店の中から、彼ががふら〜っと出てきて、小さな声で、「あのー、これ、うちの畑で採れた檸檬です。小さいけど、結構すっぱいです。」

といって、葉のついた小さな檸檬を差し出したのでした。


それから何日か経って。。。

再び訪れると、彼はいなくなっていて、彼の妹さんがお店を引き継いでいました。

妹さんに替わってからも、珈琲は相変わらず美味しかったのですが、なぜか自然とそのお店には行かなくなってしまいました。


その後、聞いた話によると。。。

彼は、冬はスキーのインストラクター、冬以外の季節には喫茶店をしながら、家で畑を耕し、海で素潜りをするという、自由人だったそうです。


今思うと、あの檸檬は、私への最後の挨拶だったような気がします。

口下手な彼の、「さようなら」と「ありがとうございます」が入った檸檬


今も珈琲を飲むとき、ふと、彼のお店と、珈琲と、あの檸檬を思い出すのです。