宿
大学生だった頃、ちょうど今ぐらいの時期には、友達と2人でアジア方面へ旅に出ていました。
もちろん貧乏学生なので、往復の格安航空券だけを買って、バックパックに荷物を詰めて、とりあえず現地へ。
まず、向かうのはタイのバンコク。
バンコクで体を慣らした後、カンボジア、インドなどの他国をまわり、またバンコクに戻って、のんびりしてから日本へ帰国する。
というのが、私たちの旅のパターンとなっていました。
宿はもちろん安宿。
転々と泊まり歩く中、この時は安宿街から少し離れた、お寺の裏の宿にたどり着いたのでした。
Cゲストハウス。入り口でミラーボールがぐるぐる。
中をそーっと覗くと、髪の毛をぺたーっとさせて、金の指輪と金のネックレスをジャラジャラ付けて、
全身白い服を着た若い男性が、こちらをじーっと見ていました。
「サワディカ〜。あのー、部屋、空いてますか?」
「うん。空いてるわよーん。中見てみるぅ?」
あ!この人、オカマさんだ! ま、タイだからね。宿に1人くらいは居るか。
「はぁーい。こちらぁーー。」
腰くねくね歩きで案内された部屋は、安い割に掃除が行き届いていて、ベッドも良い感じ。
この宿に即決したのでした。
次の日の朝。
朝ご飯を調達しに行こうと部屋を出ると、背後から
「グッモォニィ〜〜ン♡」
昨日は見なかったお兄さんが、腰くねくねお掃除。頭にはピンクのパッチン留め。
あ、この人もオカマさんだ。
階段を下りると、
「グッモーーーニーーン!」
今度は、小学生ぐらいのちびっ子が、テキパキお掃除。
玄関をでると、
「グッモォニィ〜〜ン♡」
あら。また、オカマさんだ。
実はこの宿、オカマのお兄さん達と、小学生の男の子達しか働いていない宿だったのです。
宿の通路は、ちょっとしたレストランになっていて、
昼下がりには、小学生の男の子とオカマさんが、チラシの裏に仲良くお絵描きをしていたり、
夜には、ぐるぐる回るミラーボールの下で、みんなでキャーっといいながら踊っていたり。
みんな、かわいくて、無邪気で、とにかく笑顔が素敵で。。。
そして、当然彼らは男性が好きなので、私たちには興味が全くなく、放っとかれ放題。
それがまた、こちらとしては好都合だったということもあって、以来ここは私たちの常宿になったのでした。
今まで、いろんな国のいろんな宿に泊まりましたが、
ここ以上に、「自然に」癒される宿は、私の中ではないような気がします。
私にとって、ここは間違いなく世界一安くて癒される宿です。